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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)318号 決定

兵庫相互銀行

理由

被担保債権の履行期が既に到来していることは、抵当権実行の開始要件の一つであり、履行期未到来の間になされた抵当権に基づく競売の申立は不適法として却下さるべきである。競売裁判所がこの点を看過して被担保債権の履行期到来前に、競売開始決定をなし爾後の手続を進めた場合には、右手続は違法たるを免れない。しかしながら、もし競売手続の完結前に履行期が到来したときは、これにより、右競売手続上のかしは治癒されると解するのが相当である。けだし、この場合は、当初より抵当債権又は抵当権が不存在であるのに競売手続を開始した場合と異なり、右競売手続は、債務者の履行遅滞の場合に当該物件につき競売の申立をなし得る権限を有するものの申立に基づくものであり、ただ、競売開始時に、履行期到来という競売開始要件の一つが欠けていたに過ぎないと見ることができ、右欠缺要件が競売手続完結前に充たされた以上、これにより競売申立は適法なものと転化し、爾後適法に右物件につき競売手続を進行し得る状態に立ち至つたというべきである。更めて競売手続の最初から繰り返さずして、既になされた競売手続をそのまま利用しても、競売制度の本旨に反するものとは考えられないし、また債務者その他利害関係人の利益を害することもないと解せられるからである。

ところで、記録によれば、本件競売開始決定ならびに競落許可決定は、昭和三四年六月一三日債権者株式会社兵庫相互銀行がなした競売の申立に基づきなされたものであることが認められる。抗告人は、債務者島繁一において、被担保債権につき、債権者から昭和三五年一二月末日まで支払の猶予を得たから、右競売手続は違法であると主張するけれども、右競落許可決定のいい渡された日であることが記録により認められる昭和三六年一一月二一日には右猶予期限を既に経過して居り、被担保債権につき未だ弁済をなしていないことは抗告人の主張自体から明らかである。そうすると、本件競売手続は、その開始当時には、たとえ抗告人主張のかしがあつたとしても、右競売手続中に右かしは既に治癒されたものというべきである。よつて、抗告人の右抗告理由は、被担保債権につき抗告人主張のような期限の猶予があつたかどうかの事実を確定するまでもなく、採用することができない。

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